ウクライナ社会に残る根深いジェンダーの固定観念

 “自身が担当していたケースが「ジェンダーに基づく暴力」(GBV: Gender based violence)であるという認識がなかった。研修を受けて理解が深まり、今後GBVによる被害者がサポートをより受けられるようになると思う”

 これはADRAが実施したMHPSS(メンタルヘルス心理社会サポート)研修を受けた参加者の言葉です。このフィードバックをくれた地方社会福祉局職員のように、受講者の多くは、地域住民と日々直接やり取りをする行政職員や、地元NGO団体職員など。地域の人々から家庭内暴力など、日々の暮らしに関わる悩みの相談を受け対応する人々です。毎日様々なリスクにさらされる住民とのやり取りは、事態をさらに悪化させないためにも細心の注意が必要です。

 ADRAのMHPSSの活動では、戦争により直接的・間接的に心に大きな負担を抱えた人々へ、カウンセリングセッションやセラピー活動などのサポートを提供するだけではありません。現場でこうした人々を支える窓口となる社会福祉関係者に対し、適切な知識をもって業務に当たることができるよう支援を行ってきました。

キーウで開催されたイベントでADRAのMHPSS活動について紹介する現地スタッフ(2025年12月5日)

 昨年12月に現地事業スタッフと行った事業活動の振り返り会議では衝撃的な報告もありました。

 “私たちのMHPSS研修前のアンケートでは、67%の参加者が「ジェンダーに基づく暴力は被害者側の過失である」と回答しました。ウクライナにはGBV事案は女性の不道徳な行為に原因があると考える固定概念が未だに存在しています”

実際に研修で使用した資料(GBVの主な原因について)

 2019年のOSCE(Organization for Security and Co-operation in Europe:欧州安全保障協力機構)の調査によると、ウクライナにおいて5人に1人の女性が

「虐待を受けたと主張する女性は虐待やレイプの申し立てを『捏造もしくは誇張』することが多い」

とする認識を持っているとされています。

 また、2017年のDCAF(Democratic Control of Armed Forces:民主的軍隊統制センター)の調査では、調査対象となった警察官、検察官、裁判官の約60%が、家庭内暴力に関する報告の大部分は虚偽であると認識している、という報告がなされました。 ウクライナでは、これらの研修を受講した地方行政職員からの口コミなどが広がり、2025年12月の時点で、ADRAに60を超える組織・団体から研修実施の要請が寄せられています。

 悲しいことに停戦交渉が続くこの年末年始にも、ウクライナ側・ロシア側それぞれで民間人が犠牲になりました。こうした状況の中で、現場の人々が逆境を乗り越える力を少しでもつけ、地域社会全体で支えていくことができるように。皆さまからのご支援を基に、私たちはそんな想いを胸に活動を続けています。

(文責:ウクライナ事業担当 高橋 睦美)

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