
ウクライナ・ハルキウ州に暮らすアンナさんは、2人の子どもを育てる母親です。
つい数年前まで、彼女の家族はとても穏やかな日々を過ごしていました。
将来の計画を立て、旅行を夢見て、子どもたちの教育や、いつか持つであろうマイホームのことを夫婦で語り合っていたと言います。
けれど、その日常は突然奪われました。
戦争が家族の安全を脅かし、幸福に満ちた暮らしは恐怖と不安に塗り替えられてしまったのです。

離ればなれの家族
夫は今も家を離れざるを得ない状況にあり、アンナさんは4年生の息子さんと幼い娘さんを連れて暮らしています。
彼女が毎朝起きて最初に思うことは、「今日もみんなが生きていてくれますように」という、ただ一つの祈りのような願い。
2022年の初め、住んでいた村が激しい砲撃にさらされたため、家族は覚悟を決めてハルキウ市へ移動しました。
そこには、危険が完全に消えたわけではないけれど、避難シェルターがあり、子どもたちが学び続けられる環境がありました。
息子さんは今、地下に設けられた学校に通っています。空襲が鳴り響く中で授業は続きます。
娘さんも、小さい身体で毎日一生懸命に新しいことを吸収しようとしています。
この日常を思い浮かべると、胸が締め付けられるような気持ちになります。
私にもアンナさんと同じように、4年生になる息子がいます。自分の子が空襲の音を聞きながら学校に通う姿を想像するだけで身体が震え、涙がこみあげてきます。
そんな状況で子どもたちを守り、励まし、日常を作り続けるアンナさんは、同じ母親として心から尊敬せずにはいられません。
文具が取り戻した、子どもたちの笑顔
アンナさんが語ってくれたのは、ある日の小さな喜びについてでした。
「本当に嬉しかったです。ADRAから子どもたちに学用品の支援をいただいたんです。」
新品のノート、色鉛筆、消しゴム——。
誰かにとっては “ただの文具” かもしれません。
けれど、アンナさんの子どもたちにとっては、自分たちが忘れかけていた「子どもらしい喜び」そのものでした。
ペンを1本、鉛筆を1本手に取るたびに、目を輝かせて喜ぶ子どもたち。
その笑顔を見た瞬間、アンナさんは久しぶりに胸が温かくなる感覚を思い出したと言います。 母親にとって、子どもの笑顔ほど尊いものはありません。
どれほど世界が揺らぎ、日常が壊れてしまっても、子どもの笑顔が母をもう一度強くしてくれるのだと思います。
「ひとりじゃない」——支援の手が、希望を灯す
ADRAの支援を受けたとき、アンナさんはその物資以上の何かを受け取ったと感じたそうです。
それは、「世界のどこかに、私たちのことを気にかけてくれる人がいる」という実感。
どれだけ過酷な環境でも、人は “誰かが自分を想ってくれている” と知ることで、再び歩き始める力を得られるのでしょう。
アンナさんは言います。
「いつか必ず、家族全員で平和な家に戻れると信じています。」
その言葉には、母としての強さと、消えることのない愛が宿っていました。
母の強さ
アンナさんの物語を聞きながら、私は何度も自分の息子の顔を思い出しました。
同じ4年生の男の子を育てる母として、「もし自分だったら」という想像をどうしても避けることができません。
恐怖で眠れない夜もあるでしょう。
泣きたい時もあるはずです。
それでも、子どもたちの前では “お母さん” であり続ける。
その姿こそが、何よりも尊く、何よりも強い。
未来に、希望が届きますように
アンナさんとその子どもたちが、また安心して眠れる夜を迎えられる日が必ず来ることを願っています。離れ離れになった家族が、再び同じ食卓を囲む日が訪れますように。
そして、私たちひとりひとりが、遠い地で懸命に生きる誰かの力になれることを忘れずにいたい。
アンナさんの物語は、そんな大切なことを思い出させてくれます。
(執筆:ウクライナ事業担当 馬渕 純子)
