
1. はじめに
1-1. ウクライナ人道危機
2022年2月24日、ウクライナ全土に対する空爆が始まり、深刻な人道危機が拡大しました。この日を境に、多くの人々が住み慣れた家を失い、家族や大切な人との別れを余儀なくされたとともに、生活や日常の安全を根本から失いました。ウクライナの歴史のみならず、世界にとっても深い衝撃を与える日として刻まれています。
戦闘は都市や農村を問わず広がり、住宅、病院、学校、道路、電力や水道施設といった生活基盤となる場所が繰り返し破壊されてきました。こうした状況は人々の安全な居住環境を脅かすだけでなく、医療・衛生・教育といった基本的サービスへのアクセスも大きく制限します。また、エネルギーやインフラ施設への攻撃は、特に冬季には深刻な人道危機を引き起こしており、何百万もの人々が暖房や安全な水にアクセスできない状態に陥ります。

国連機関や人道支援団体は、戦争開始以来継続して支援活動を行ってきました。国際機関であるOCHAが発表した2026年の「人道ニーズと対応計画」(Humanitarian Needs and Response Plan)では、最も脆弱な人々への命を守る支援として、食料、医療、避難所、現金支援、保護支援など多面的な支援の必要性が打ち出されています。2026年には 約4百万人の最も困難な状況にある人々への支援が目標とされ、計約11百万人以上が何らかの人道支援を必要としていると推定されています[1]。
この国際的な支援は、単なる救援活動にとどまらず、困難な状況に置かれた人々の尊厳ある生活の維持を目指すものです。
[1] As the relentless war in Ukraine grinds on, humanitarian partners aim to reach 4.1 million people in 2026 | United Nations in Ukraine
1-2. 今も続く人々の困難
危機による被害は人々の心身にも深刻な影響を与えています。度重なる空爆の脅威、避難を余儀なくされた生活、家族との離別は、心理的な負荷やストレスを増大させています。とりわけ、子ども、高齢者、障がいのある人々、ひとり親世帯など、社会的に最も脆弱な立場にある人々は、幾重もの困難と不安を抱えながら日々の生活を送っています。
また、インフラの破壊は季節的な危機と重なることで更なる困難を生んでいます。特に氷点下にもなる寒冷な冬の時期には、電力や暖房の供給が断続的になることで生活環境が一層厳しくなり、避難民や断水・停電に苦しむ人々にとって、基本的な安全と健康を守るための支援が不可欠な状況が続いています。
このようにウクライナでは、戦争開始から現在までの破壊と困難が積み重なり、単発の支援では解決できない深刻な人道ニーズが発生しています。そのため、人道支援は緊急の命を守るレベルから、生活の再建や安心できる環境の回復にまでおよぶ長期的な対応が求められているのです[1]。
[1] Ukraine Humanitarian Needs and Response Plan 2026 | Ukraine | Humanitarian Action
2. ウクライナ国内外で支援を開始
ADRAは、2022年2月24日にウクライナ危機が発生したことを受け、同日中に緊急対応を開始しました。戦争開始当初から、人々の命と尊厳を守ることを最優先に、ウクライナ国内および近隣国に避難したウクライナの人々への支援を継続して実施しています。
ウクライナ国内では、戦闘やインフラ破壊の影響を大きく受けた地域を中心に、食料や生活必需品の配付、衛生・生活環境の改善、医療・保健支援、現金給付など、多岐にわたる人道支援を行ってきました。特に、高齢者、子ども、障がいのある人々、ひとり親世帯など、困難な状況に置かれた人々を優先的に支援しています。

3. ウクライナ国内におけるADRA Japanの支援活動の内容と実績
ADRA Japanは、2025年2月25日から緊急支援募金の受付を開始し、独自の募金受付サイトのほか、Yahoo!ネット募金を活用し、平穏な生活を奪われてしまったウクライナの人々に人道支援を届けるためのご寄付を受け入れてきました。多くの個人の方、企業の方のご賛同をいただき、個人的なご寄付のほか、企業としてのご寄付や、チャリティ商品の販売等を通じても、多くのご支援をいただきました。また、(特活)ジャパン・プラットフォームからの助成も受け、ウクライナ全土で活動するADRAウクライナ支部との連携のもと、日本の皆さまからの支援を届けることができました。
3-1. 食料・生活必需品支援
ウクライナ各地で安全が脅かされるにつれ、流通の停滞やインフラの機能停止が起こり、食料や衛生用品といった最低限の生活物資が不足し、人々の命そのものが脅かされる緊急事態となりました。
こうした状況の中、命を守るために最優先で求められたのが物資配付による緊急支援でした。ADRA Japanは、戦争開始直後から食料をはじめとする生活必需品の配付を行い、避難を余儀なくされた人々や、特に脆弱な立場にある人々が最低限の生活を維持できるよう努めました。


これまでに、脆弱な状況にある方々に向けて食料、衛生用品、防寒用品、成人用おむつなどの物資支援を届け、合計で80,024人以上の裨益者に支援を提供してきました。

身体の障がいなどの理由により物資を配付所まで取りに来られない人々のもとへは、スタッフが各家庭を訪問し、箱詰めされた食料を一つひとつ手渡しします。
受け取った女性は涙ながらに話してくれました。
「昨日も夜中に3回も爆発があり目が覚めました。辛くて・・・本当に辛いです。何でこんなことになってしまったのでしょう。私たちは貧しかったですが、それでも生きてきました。今は生きるのが辛いです。でもこうして食料を届けてくれて嬉しいです。ありがとう。ありがとう。心から感謝します。」
3-2. 燃料配付支援
ウクライナでは戦火の影響により、電力やガス供給が不安定な状況が続き、冬季における寒さは命に関わる重大な危機となっています。暖房設備が機能しないまま氷点下の冬を迎える家庭が多く、特に住宅を失った方や、避難所で生活を送る方々にとって、暖を取るための燃料や防寒用品の確保が喫緊の課題でした。こうした背景から、物資支援の一環として越冬支援が必要となり、ADRA Japan は現地のニーズに応じた活動を実施してきました。

ADRA Japan は、寒さで命を落とすリスクを軽減するため、燃料をはじめとする越冬支援物資の配付を継続してきました。これまでに、国内避難所に暮らしている340人以上へ燃料配付を実施し、厳しい冬を乗り越えるための一助となりました。また、暖房用として使用できるストーブや毛布、寝袋などの冬季必需品も合わせて配付し、避難所や家庭での寒さ対策を支えました。

子どもたちも積極的に運搬を手伝っていた)
また、東部ドネツク州など、頻繁な停電の中、自宅にも被害を受けながら生活する世帯には調理機能付き薪ストーブを届け、人々が暖を取りながら食事を用意できるよう支援しました。


支援を受けた裨益者からは、以下のような切実で感謝に満ちた声が寄せられています。

「昨年の冬は私たちにとって非常に厳しいものでした。その前の冬はもっと厳しかったです。今日、ADRAから届いたブリケット(固形燃料)にとても感謝しています。これで、精神的だけでなく物質的にも準備が整いました。(今季を越すのに必要な)十分なブリケットを備蓄することができました。この時期、燃料は私たちにとって非常に重要なものです。この支援にとても感謝しています。」
また、国内避難民所で暮らす人々からも、命を守る支援としての越冬支援の重要性が語られています。

「今日、ADRAがブリケット(固形燃料)を届けてくれました。大変ありがたい支援です。私たちの2つの建物にはボイラーがあり、燃料が必要ですから。私たちは心から感謝しています。私たちを助けてくださるADRA、そしてすべての方々に心より感謝いたします。」
これらの越冬支援は、単に暖を取るための物資を届けるだけでなく、健康維持や生活の継続を支える重要な支援となっています。燃料や防寒用品の支援によって、極寒の冬でも体温低下による健康被害や命の危険を避けることができるとともに、避難生活を送る方々が少しでも安心して日々を過ごせる環境を整える役割を果たしています。
3-3. 医療・保健支援
戦争の長期化により、ウクライナ国内では基本インフラの破壊や電力不足が、人々の命と暮らしを直撃しています。停電は病院や医療機器の稼働に深刻な影響を及ぼし、多くの地域で医療サービスの継続が危ぶまれていました。こうした状況に対応するため、ADRA Japan は電力と輸送の基盤を支える活動にも取り組んできました。
その一つとして、16台の大型発電機をウクライナ各地の医療機関に届けました。発電機は戦闘による停電リスクが高い地域の医療機関で、手術や治療を中断しないために不可欠な装備です。オデッサ州では大型発電機が病院に設置され、24時間365日稼働する医療現場の安心と安定した診療環境の確保につながっています。このような取り組みは、命を守る医療体制を後押しする役割を果たしています。


また、これらの物資を効率的に配送するには物流インフラの強化も重要です。これを支えるため、大型トラックや倉庫設備の整備にも注力しています。日本からの支援で配備したトラックは、ウクライナ東部の各地域で食料や医療物資を運搬し、支援活動の継続的な実施を支えています。
さらに、支援物資の保管や管理のための倉庫設備は、物資の迅速な配付と品質保持に欠かせません。倉庫を活用することで、多数の世帯(例:約25,800人分の物資)へ支援を届ける体制構築に寄与しました。これにより、必要なタイミングで物資を安全に配付できる体制が強化されています。

これらの支援は、単に物資を届けるだけでなく、支援全体の安定性と持続可能性を高めるための基盤整備として重要な役割を果たしています。電力と物流の強化は、人道支援活動の実効性を高め、人々の生活を支える一助となっています。
3-4. 現金給付
ADRA Japan は、現金給付にも取り組んできました。この支援は、食費・医療費・薬代・家賃・生活必需品の購入など、受益者が最も必要としている用途に自由に使える現金を提供するもので、商店等が機能している地域では特に有効な手段です。合計で 3900人以上の方々に届けられています。

現金給付は人々の尊厳ある生活を支える柱の一つとして位置づけられています。戦争長期化による物価高騰や収入減という問題が深刻化する中、現金給付は医療費や薬代の確保につながり、命を守る支援として機能しています。
障がいを抱える家族と暮らすスタロドゥベツさんは、夫婦共に障がいや持病を持ち、わずかな年金での生活が困難な中、現金給付支援を受けることで薬や生活必需品を購入できるようになったと語ります。「支援を受けて本当に助かった。」と話す笑顔と感謝の言葉が印象的でした。

この声は、現金給付が単なる経済支援にとどまらず、日々の健康と暮らしを守る重要な支えになっていることを示しています。
ウクライナ中部・ドニプロ市のオクサナさんは、「家は完全に壊れてしまいましたが、現金給付で家賃の一部や食料の購入ができています。支援が届いた今も再建は容易ではありませんが、家族の安全を守る希望になっています。」と話します。
現金を受け取り、子どもたちの食料や生活必需品の購入に充てました。

同じくドニプロに暮らすスヴィトラーナさん(東部ドネツク州より避難)は次のように語っています。
「義母の薬や生活費はとても高く、日々の生活が困難でした。支援によって薬を買えるようになり、本当に助かりました。」
家族全員分の薬代や食料の確保に現金給付を活用しています。

この支援を通じて、人々は生活をつなぐだけでなく、将来への希望や自立に向けた一歩を踏み出す力を取り戻しつつあります。ADRA Japanは、現金給付や物資支援に加え、心理社会的支援や語学・就労支援を組み合わせ、避難民が新しい社会に順応し生活再建を進められるよう支援を行っています。
3-5. 子どもたちへの支援
戦争の長期化は、大人だけでなく子どもたちにも深刻な心の負担と生活上の困難をもたらしています。慣れない避難生活や家庭の不安定さ、日常生活の変化は、子どもたちにとって安全・安心を損なう要因となり得ます。こうした状況を踏まえ、ADRA Japan は子どもたちが安心して過ごせる環境づくりと笑顔を取り戻す支援を続けています。
(1) クリスマスギフト
ホリデーシーズンは、特に家族にとって大切な時間です。しかし、戦争下では多くの子どもたちがそうした時間を経験できず、心に深い影を刻んでいます。そうした中で、ADRA Japanはクリスマスギフトの提供を通じて、2,400人以上の子どもたちに喜びと安心を届けました。

配付が実施された地域では、ADRAスタッフとボランティアにより、クリスマスギフトが子どもたち一人ひとりに手渡されました。たとえ戦争の困難な状況下でも、笑顔と希望を感じられるひとときとしてギフトを受け取った家庭から喜びの声が届きました。

「今年のクリスマスは久しぶりに笑顔が戻りました。ギフトをもらってとても嬉しかったです。」
— 保護者の声(ウクライナ国内にて)
これらの支援は子どもたちの心の安定にもつながっています。
(2) 学習キット
戦争による学校の閉鎖や教育機会の減少は、子どもたちの学びと成長に大きな影響を与えています。学習の継続は、子どもたちの将来の可能性を守る上でも非常に重要です。そのため、ADRA Japan は 学習キットの配付を通じて、家庭やコミュニティでの学習機会を支えました。

具体的には、ノートや文房具などが含まれる390の学習キットを子どもたちに提供し、戦時下でも学習を継続できる環境を整えています。支援を受け取った家庭からは次のような声も届いています。
「家で勉強ができるようになり、子どもたちが毎日楽しそうに取り組んでいます。これが私たちの希望です。」
— 学習キットを受け取った子どもの保護者
これらの支援は、子どもたちの成長と心の安定を支える重要な要素であり、困難な状況においても学びや笑顔を取り戻すための取り組みとなっています。
子どもたちにとって、安心感を持つことや希望を感じられる学習環境が守られることは極めて重要です。提供されたクリスマスギフトや学習キットは、子どもたちにとって単なる「物品」であるだけでなく、日常の楽しみや学びの継続という意味をもちます。日々の小さな喜びや達成感を通じて、子どもたちは未来への希望を抱き続ける力を育んでいます。
3-6. 心理社会的支援の取り組み
紛争の影響は、人々の心の健康にも深刻な影響を及ぼします。砲撃や避難、家族・友人との別離、住まいや生活基盤の喪失といった体験は、長期にわたって人々の心に残るトラウマやストレスを生みます。このような精神的負荷は、日常生活の機能低下や人との関係性の悪化、場合によっては深刻な精神疾患につながることがあり、早期に支援を提供することが極めて重要です。
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国際機関の報告では、戦争による心理社会的ニーズが極めて高く、避難やトラウマ体験により、多くの人々が心理的支援を必要としていると示されています。赤十字赤新月運動の報告では、人道危機開始後6か月間で、推計約1,500万人以上が心理社会的支援を必要としているものの、同支援が実際に提供されたのは約数十万人にとどまっています[1]。
[1] New report: Mental health needs are growing in Ukraine – MHPSS Hub
心理社会的支援は、コミュニティのつながりや心の安定化、長期的な回復力の構築に資する支援であり、教育・保健・社会福祉など多様な分野との協調が必要となります。
また、戦時下ではジェンダーに基づく暴力や家族内の緊張など複合的な精神負荷が生じるため、地域の相談体制や福祉職員の支援能力そのものを高めていく必要もあります。ADRA Japanの心理社会的支援活動では、こうした背景に基づき、総合的な心の支援を提供しています。

(1) 個別カウンセリング・グループセッション

専門的な心理カウンセリングのセッションをオンラインで提供することで前線地域や遠方に住む方を含む延べ3,276人以上の裨益者に心理社会的支援を届けてきました。
ADRA Japanの心理社会ケア活動の特徴は、一人ひとりの複雑な心の状態に寄り添う個別セッションと、共通の悩みを持つ人々が集うグループセッションの両方を持つ点にあります。これにより、孤独感や不安を共有しながら、専門的なカウンセラーと共に心を立て直す機会を提供しています。
グループセッションでは、親子関係や他者とのコミュニケーションなどをテーマにした参加者の声が報告されています。

【2025年4月ヴィーンヌィツャさん。夫と子どもたちと共に暮らす里親】
「突然4人の小さな子どもを育てることになり、当初は厳しいルールで縛っていました。でもグループセッションを通じて、ルールは子どもの安全と健康に焦点を当てるべきだと学びました。今では必要以上に縛ることをやめ、子どもたちを理解しながら向き合えるようになりました。」

【2025年4月2人の子どもを育てるヴィーンヌィツャさん】
「『愛情表現』のグループセッションで、子どもたちが何を求めているのかを改めて考えることができました。息子は言葉で褒められることを、娘は温かいスキンシップを求めていることに気が付きました。今は、子どもたちの境界線を尊重しながら、それぞれに合った方法で愛情を伝えるようにしています。」
心理社会的支援は、特に戦争下で不安定になりがちな心の状態に目を向け、日常生活や家族関係の回復と再構築を助ける重要な役割を果たしています。
(2) 法的サポート・コミュニティトレーニング・精神科支援
ADRA Japanの心理社会的支援活動は、法的サポートやコミュニティトレーニング、精神科医による支援といった多様な側面を含みます。
法的サポート
法的な不安や複雑な行政制度の理解不足は、心理的負担を増幅させることがあります。特に戦争下では、避難に伴う生活補償、住居・雇用・家族の法的課題が複雑化するため、ADRA Japanは弁護士による相談会を実施しました。130人以上が、専門家に無償で相談することができ、避難者の経済的、心理的安定に寄与しました。

コミュニティトレーニング
地域住民と関わりの多い行政職員、福祉関係者を対象に、ストレスマネジメント、心理的応急対応スキル、相談支援の基本などをテーマとしたトレーニングを実施しました。160人以上が参加し、支援が必要な人々を早期に発見し、適切な対応を促す力を養っています。
精神科医による支援
深刻なストレス反応や精神症状を抱える人々に対し、専門の精神科医療サービスへの橋渡し支援および直接支援を行いました。これまでに、37人以上が精神科医による支援を受けました。
精神疾患は戦争体験により増加する傾向が報告されており、薬物療法や専門的治療が必要な支援は、心理社会的支援活動全体の重層的アプローチとして重要です。
4. ADRA Japanのスロバキアにおける支援活動の内容と実績
2022年2月の全面戦争の勃発を受けて、ウクライナでは国内外に膨大な数の人々が避難を余儀なくされました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のデータによると、約6.8〜6.9百万人のウクライナ人が国外へ避難し、約3.7百万人が国内で避難生活を送っています。これは依然として深刻な人道危機が続いていることを示しています。
避難先として最も多いのはヨーロッパ諸国で、ドイツやポーランドをはじめチェコ、スロバキア、イギリス、スペイン、イタリア、フランスなどへ多数が移動しています。 これらの国々では、EU の一時保護制度等を活用しながら生活基盤を模索する避難者が多くいます。ADRA Japanは、ウクライナからスロバキアへ避難した人々が、避難先において最低限の生活を維持し、将来的な自立に向けた基盤を整えられるよう、2023年からADRA スロバキアと連携した支援活動を実施しました。避難民の多様なニーズに対応するため、以下の3つの活動を柱として支援を行いました。
4-1. 現金給付
避難生活が長期化する中で、避難民が自らの必要なニーズに応じて物資やサービスを選択できるよう、3,392人に対して現金給付支援を実施しました。本活動では、スロバキアの状況に合わせてスーパーや飲食店で使用可能な現金カードの形で給付を行いました。
特に脆弱な方や支援の届きにくい方を優先的に対象とした結果、支援を受けた人の約63%が65歳以上の高齢者、約33%が障がいのある方または障がいのある子どもを抱える世帯でした。支援後の調査では、99.5%以上の回答者が「必要な物資やサービスへのアクセスが改善した」と回答しており、生活の安定に寄与したことがわかりました。
4-2. 食料・生活必需品支援
スロバキア国内の複数の避難民センター(ブラチスラバ、トレンチン、ピエスチャニ、ケジュマロク等)において、延べ6,459世帯に対して食料および生活必需品を配付しました。高齢者、障がい者、子どもを抱えた世帯など、避難者の状況に応じて必要な物資を選択できる仕組みを導入し、個々のニーズに沿った支援を実現しました。


さらに、新学期開始に合わせて学用品(スクールバッグ等)395セットを配付し、子どもたちの学習継続も支えました。

4-3. 自立支援(心理社会的支援・就労/生活相談)
避難生活に伴う精神的負担の軽減や、避難先社会への適応を支援するため、ADRA Japanは心理社会的支援と生活・就労支援を組み合わせた包括的な支援を実施してきました。これらの活動は、ウクライナ国内およびスロバキアでの支援経験を活かし、避難生活の長期化に伴って生じる心理的ストレスや社会的孤立、言語の壁、就労機会へのアクセスの困難といった課題に対応することを目的としていました。
スロバキアでは、ADRAスロバキアと連携し、ブラチスラバ、トレンチン、ケジュマロクを中心に支援を展開しました。心理社会的支援(心のケア)、語学学習、生活・就労相談、交流活動などを組み合わせ、避難民が安心して生活できるようサポ―トしました。

心理社会的支援では、専門スタッフによるグループカウンセリングやアートセラピーを実施するとともに、避難民が自由に集い交流できる「心のケアサロン」を継続的に開催しました。これらの活動は、安心して気持ちを共有できる場を提供し、孤立の防止やコミュニティ形成を促進する役割を果たしました。
また、生活再建に向けた支援として、スロバキア語の語学コースを提供し、日常生活や就労に必要なコミュニケーション能力の向上を支援しました。さらに、生活・就労相談や情報提供を通じて、避難民が自らの力で生活基盤を整えられるよう後押ししました。子どもに対しては就学準備支援も行い、新しい教育環境への適応を支えてきました。


トレンチン避難民センターでは、語学学習と交流活動を通じて、避難民が自信を取り戻し、地域社会とのつながりを築く変化が見られました。語学講座に参加した家族からは、次のような声が寄せられました。
「私は学校で少しスロバキア語を学んだことがありましたが、母は全く話せませんでした。ここで語学クラスに通い始めてから、今では母もきちんとコミュニケーションが取れるようになっています。」
(2025年8月 ADRAトレンチン避難民センター・スロバキア語講座受講者)
また、若者向けの交流活動は精神的な安定や居場所づくりにもつながっています。
「学校やアルバイトで疲れてここに来ても、母国語で話せる相手がいると疲れを忘れます。ここでは自由に話せて、気持ちが軽くなります。」
(2025年8月 ADRAトレンチン避難民センター利用者)
地方都市であるケジュマロクでは、高齢の避難民が多く、センターが孤立の軽減と心の安定に大きな役割を果しました。センターを利用した方からは次のような声が聞かれました。
「スロバキアの人たちの中では自分がよそ者のように感じることがあります。でも、このセンターでは自分らしくいられます。ここに来ると、家族のようなつながりを感じます。」
(2025年12月 ADRAケジュマロク避難民センター利用者)



さらに、日常的な交流の場が精神的な支えとなっていることも語られています。
「もしこの場所がなかったら、誰とも話せず、気が狂ってしまったかもしれません。」
(2025年12月 ADRAケジュマロク避難民センター利用者)
これらの取り組みを通じて、避難民は安心して集い、互いに支え合えるコミュニティの中で、避難民が尊厳を保ちながら新しい社会に順応し、将来に向けた生活再建と社会統合を実現できることが大切です。
5. 終わりに
ウクライナ危機が始まって以来、長期化する困難な状況の中で、ADRA Japanの活動は、多くの企業・団体、そして一人ひとりの皆さまからの温かいご寄付と継続的なご支援によって支えられてきました。
皆さまの思いのこもったご支援があったからこそ、戦火の中にあるウクライナ国内、そして避難先であるスロバキアにおいて、人々の命と暮らしを守る支援を続けることができています。
改めて、心より深く感謝申し上げます。
皆さまのご支援は、単なる物資やサービスの提供にとどまらず、人々の生活と心に確かな変化をもたらしました。
ウクライナ国内では、食料や衛生用品、燃料、医療機関への発電機などの支援を通じて、命を守るために必要不可欠な基盤を届けることができました。冬季の越冬支援では、厳しい寒さの中でも人々が安心して暮らせる環境を整え、多くの方々の不安を和らげることにつながりました。
また、スロバキアでは、避難生活を送る人々が孤立することなく、新しい社会の中で一歩ずつ前に進めるよう、語学支援、生活・就労相談、心のケア、子どもへの支援を包括的に実施してきました。語学を学び、仕事を見つけ、地域の人々とつながり、再び「自分らしい生活」を取り戻し始めた方々の姿が生まれています。
心理社会的支援や子ども支援を通じて、戦争や避難によって傷ついた心に寄り添い、笑顔や安心感、未来への希望を取り戻すお手伝いをすることができました。裨益者から寄せられる「ありがとう」「希望を持てた」という言葉は、皆さまのご支援が確かに届いている証です。
戦争とその影響はいまだ終わっておらず、人々の生活再建にはこれからも時間と支援が必要です。ADRA Japanは今後も、現地パートナーや地域社会と連携しながら、人々の尊厳を守り、希望をつなぐ支援を続けてまいります。
皆さま一人ひとりのご支援が、困難な状況にある人々の「今日」を支え、「明日」への一歩となっています。 今後とも、温かいご理解とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
