「この支援が未来をつくる」――土砂崩れからの再出発を支えた現金給付の力|台風ヤギ被災者支援

 2024年9月、東南アジアを広範囲に襲った台風11号(アジア名:ヤギ)により、ミャンマー北東部のシャン州も激しい豪雨と強風に見舞われました。各地で深刻な洪水や土砂崩れが発生。特にシャン州南部のカロー市周辺では、農地が流され、人々の暮らしの土台となっていた農地や収穫前の農作物が壊滅的な被害を受けました。

台風11号「ヤギ」通過後のカロー市における土砂崩れ

 ADRAは、ミャンマーにおける台風ヤギ被災者支援の一環として、ジャパン・プラットフォームの助成を受け、この被災地域において「ミャンマー・シャン州南部における洪水被災者の生活再建のための現金給付事業」を実施。皆さまからのご支援と合わせて、2025年4月以降、現地コミュニティと連携し、生活の立て直しを目指す住民の方々に寄り添った支援を届けました。

失ったコーヒー農園にもう一度希望を――Maungさんの挑戦

 カロー市カンバーニ村に一人で暮らすMaungさん(65歳)は、近くに家族もおらず、生活は自らのコーヒー農園の収入に支えられていました。災害前は70本のコーヒーの木を育てており、収入はささやかでも、村の行事に寄付をするなど地域とのつながりも大切にしていました。

 しかし、土砂崩れによってその大半が流されてしまい、残ったのはわずか20本。被災後の7か月で得られた収入は50万チャット(約3万円)ほどで、日々の食費すらままならない状況でした。特にタンパク質を含む食材を買うことはできず 、農園の再建にも手がつけられない日々が続きました。

 そんな中、ADRAの現金給付支援の知らせを聞き、「やっと希望が持てた」と語ってくれました。

 2025年6月9日、彼は370,000チャット(約2万5千円)を受け取り、すぐに全額を新しいコーヒー苗の購入に充てました。苗は500本。モンスーン(雨季)が始まったタイミングでもあり、農園再建に最適な時期でした。

コーヒーの苗を植えるMaung Nyoさん(2025年7月)
被災をまぬかれたコーヒーの木。数年たてばこのように実をつける

 「もしこの苗がうまく育てば、将来の生活に安心が戻ってきます。本当に大きな支援です。寄付してくださった方々に感謝するとともに、皆さまの幸せもお祈りいたします」と話してくれました。

「また始められる」――3人の子を育てる母、Khinさんの選択

 同じくカロー市のヒンカーカン村に暮らすKhinさん(31歳)は、3人の子どもを育てながら、家族7人で暮らしていました。彼らの主な収入源は小規模な農業で、茶葉やコーヒー、生姜、水田作物、パパイヤなどの栽培により、年間で1,000万〜1,500万チャット(約64万円~96万円)を得ていました。

 しかし、台風「ヤギ」による災害で、それら作物が根こそぎ奪われてしまいます。「すべてを失いました。収入もなくなり、食事をとるのも大変でした」と彼女は振り返ります。

 わずかに残った茶葉を売り、日雇い労働をしながら毎日なんとかしのごうと苦慮しますが、家族の生活費や子どもたちの教育費をまかなうには到底足りませんでした。

現金給付を受け取るKhinさん(2025年6月)
新たに植えた苗。3年後、家族を支える収入源になる(2025年7月)

 そんな中で出会ったADRAの支援。彼女もまた2025年6月9日に370,000チャット(約2万5千円)を受け取り、そのうち220,000チャットを茶葉とコーヒーの苗に、150,000チャットを当面の生活に必要な米や油などの基本的な食料に使いました。

 「これは、もう一度やり直すチャンスです」と話す彼女。新たに植えた作物が3年後には収穫できる見込みで、少しずつ、家族の暮らしを再建する希望を見出しています。

 彼女は支援に対し、こんな言葉を寄せてくれました。
 「寄付者の方々、そして現地まで来てくださった支援団体の皆さんに感謝します。あなた方のおかげで、家族に新しい希望がもたらされました。皆さまの健康と幸せをお祈りするとともに、私たちのように今も苦しんでいる人々に、これからも支援が届くことを願っています。」

「自分の力で立ち上がる」――その最初の一歩を支えるために

 被災後の暮らしは、生活の不安だけでなく、「再び立ち上がれるのか」という精神的な苦悩も伴います 。今回の支援で特に大きな意義を持ったのは、「必要なものを自分で選べる自由」が、人々に再び希望と自立の感覚をもたらしたことです。

 現金給付という形で届けられた支援は、単にモノを届ける以上の価値を持ち、被災者一人ひとりが「未来を選ぶ力」を取り戻す大きな後押しとなりました。

 今回の事業により、カロー市の数多くの家庭が、生活の再建に向けた一歩を踏み出すことができました。しかし、まだ多くの世帯が十分な再建には至っておらず、継続的な支援が求められています。

 これからもADRAは、ミャンマーの人々に「明日への希望」と「生き抜く力」を届け続けます。 皆さまの温かなご支援に、心より感謝申し上げます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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