
ファディーラさんが暮らすのは、イエメン南部のとある静かな村です。
そこには、約2エーカー(サッカーコート程度の面積)ほどの小さな畑がありました。彼女はその土地で、サトウキビやゴマを一生懸命に育てていました。
灌漑設備も農業機械もない農作業。頼れる水は雨だけであり、決して楽なものではありません。それでも家族の暮らしを守るため、毎日畑に向かい続けていました。
その努力にもかかわらず、一年間働いても収入は50万イエメン・リアル(日本円で約26万円)ほど。
「家族の基本的な生活費をまかなうのがやっと」と、彼女は言います。
そんなファディーラさんの人生に、大きな転機が訪れました。ADRAの灌漑修復事業との出会いです。
吸水ポンプやエンジンなどの資機材と、農業トレーニングの支援を受けたことで、彼女の農業は大きく変わり始めます。井戸を修復し、溜めた水を畑に送ることが出来るようになりました。雨水だけを頼りにしていた畑から、気候を問わず安定した灌漑が可能になったのです。

その変化は、まるで新しい扉が開いたかのようでした。
畑は約2エーカーから約10エーカーへと拡大し、作物もサトウキビやゴマだけでなく、オクラやレモン、ナス、ダイコンなどの多様な作物も育てられるようになりました。収穫の種類が増えたことで、市場に出せる商品も増え、彼女の暮らしは安定へと向かっていきました。
わずか6か月で収入は倍以上に増え、100万イエメン・リアル(約55万円)を超えるまでになりました。
今では彼女自身が労働者を雇い、農機の燃料を購入し、家族を支える大黒柱になっています。地元の市場で定期的に農産物を販売する姿は、地域でも「成功した女性農家」として知られる存在になりました。

中東の国イエメンでは、長年の紛争や貧困に加え、社会的に女性の役割が家庭内に強く限定される傾向にあります。とくに農村部では、男性の役割とされる、土地や資源、機械、資金などに女性自身がアクセスすることが難しく、それどころか男性家族の付き添い無しでの外出すら厳しいこともあります。厳格なイスラームの慣習が生活に深く根づく社会の中で、女性が自らの名前で農業を営み、収入を得て社会的に認められることは険しい道のりであったはずです。
もちろん、すべてが順風満帆というわけではありません。燃料費の高さや灌漑用パイプの不足といった課題は今も残っています。それでも、ADRAの支援で整えられた生計回復の仕組みは今も安定して機能し、彼女の農業を支え続けています。
「この支援を受ける前は、家族をどう養っていけばいいのか、毎日不安でいっぱいでした。ですが、今では農場も順調に成長していて、地域の人たちの役に立てるよう、さらに発展させていきたいと夢見ています」とファディーラさんは語って下さいました。
小さな畑から始まった一人の女性の歩みは、いまや持続可能な農業と地域の希望へとつながっています。
どんなに厳しい環境の中でも、彼女の努力を支える機会さえ提供出来れば、女性達の力は大きく花開きます。女性が経済活動の主体として認められにくい社会において、それは自分の家族のためだけでなく、地域の人々の暮らしを支える、大きな意味を持つ変化でもあります。そんなことを、ファディーラさんの物語はやさしく教えてくれているように感じます。

この活動は、皆さまからご寄付と(特活)ジャパン・プラットフォームからの助成を受けて取り組んでいます。
日頃より皆さまのご支援に、心より感謝申し上げます。
(イエメン事業担当:中西)

