【イエメン】 水が戻ると、暮らしが戻る—灌漑修復による生計回復支援3年半の成果—

イエメン南部のラヘジュ県とアブヤン県は、かつて豊かな農業地帯として知られていました。しかし、2015年からの長引く紛争や経済崩壊により、井戸は破壊されたまま高額な修復費用は捻出できず、放置されてきました。雨水だけに頼る農作業はままならず、農家の人々は生計をたてることが難しくなっています。水が届かなくなった畑は乾き、収穫も収入も失われ、地域の食と暮らしは深刻な影響を受けてきました。農業大国であったはずのイエメン人口の65%が、最低限必要な食料を確保できていません。

ADRAは、戦争を理由に農業を放棄せざる得なくなった人々に向けての生計回復支援を2022年9月中旬から実施してきました。計328世帯、2296人を対象に、ADRAが去った後も農業を営めるよう農家の方々と伴走して、灌漑システムの修復、資機材の提供と農業研修による生計回復支援を行いました。

2024年8月撮影、イエメン、農業研修の様子

98.9%の人々が農業を再開できました

2022年9月から2025年6月に支援を提供した283世帯を対象に、ADRA独自のフォローアップ調査を2025年8月24日〜9月16日にかけて実施しました。全件モニタリング調査の結果、98.9%の農業従事者が事業終了した後の現在も農業を継続していることを確認できました。さらに、87%の人々が耕作規模を拡大していました。その約40%の人々が農地を2倍以上に広げ、約7%の方は3倍にしていました。

井戸の修復により、安定した水資源の供給が戻ったことで「もう一度作物を作れる」という確信が生まれ、人々の農業への意欲が回復します。直近に実施された事業は、灌漑修復後からの経過時間が短いため、農業の成果が表れにくいのですが(上記グラフ水色線)、今後より多くの規模拡大が期待できます。

2024年10月撮影
ADRAが伴走して農家の人々の力で灌漑設備を修復、奥に見えるのが井戸

水へのアクセス向上が、作物の種類と収入を増加させました

灌漑修復の効果は、作物の種類にも表れました。これまで難しかったトマトやナス、メロン、スイカといった水を多く必要とする作物の栽培が可能になりました。農家の人々が作る作物は多様化し、畑には色とりどりの野菜、穀物や果物が実ります。

水が安定して使えるようになることは、単に収量が増えるだけでなく、「市場で売れる作物を選べる」という、人々の生計手段の選択肢の広がりを意味します。

受益者のムルシドさんはこう語ります。
「以前は、雨が降るときしか農作業ができませんでした。今では一年を通して種まきも収穫もできるようになりました」

そしてその変化は、収入にもはっきりと表れました。96.5%の農家が収入増加を実感しています。

増加した収入は、種子の購入や労働者の雇用、農業機材の維持だけでなく、家族の食料、教育、医療費にも使われていました。農業支援が、暮らし全体の安定につながっています。

灌漑修復は農業の「再開」だけでなく「成長」の土台になりました

農業拡大の最大の要因として農家の100%が灌漑修復を理由に挙げています。

灌漑設備の修復により、水資源が確保されることで、「作付面積を広げられる」、「収穫回数を増やせる」、「多様な作物に挑戦できる」といった変化が生まれました。

2025年10月撮影、畑の規模を拡大させることに成功した受益者

さらに農業研修や地域の協力、労働力の確保などが組み合わさることで、農業は単なる生計維持から、将来に向けた成長の手段へと変わっていきました。

それでも残る課題と、見えてきた持続可能な解決策

一方で、多くの農家が直面している課題も明らかになっています。

特に深刻なのが燃料費の高さで、約半数の農家が収入の25〜50%をディーゼル代に費やしている状況です。

この負担を減らす解決策として期待されているのが、太陽光発電を活用した灌漑システムです。2024年3月~12月に実施した事業でも、一部の希望する人々に太陽光発電を導入しました。燃料に頼らない灌漑は運用コストを下げ、農業継続性を高める結果が示されました。

他方、太陽光発電はディーゼルエンジンの3倍程の初期費用がかかるため、より多くの人々に支援を提供するためには、資金上なかなか厳しいものとなりました。

2024年12月撮影、ソーラーパネルを設置

灌漑の回復は、生計と希望の回復です

3年半にわたるADRAのイエメン事業の取り組みは、灌漑修復が単なるインフラ整備ではなく、農業従事者の暮らしそのものを立て直す支援であることが明らかになりました。

水が戻ると、畑が戻ります。畑が戻ると、収入が戻ります。収入が戻ると、家族の安心と地域の食が戻ります。紛争と貧困で傷ついた地域において、灌漑は単なる農業技術ではなく、「暮らしを再び動かす力」でした。

そして今、多くの農家が次の段階、持続可能で安定した農業へと歩み始めています。農家自身も将来に向けて強い意欲を持っており、78%が今後さらに農業を拡大したいと考えています。

水を取り戻した土地から、イエメン地域の未来が静かに芽吹いています。

2025年10月撮影、かつて灌漑修復支援を提供した畑の今

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