ウクライナ東部ハルキウ州の前線地域では、今も多くの人々が厳しい生活を続けています。
仕事を失い、物価が高騰する中で、人々にとって「家畜」は単なる財産ではありません。牛やヤギ、鶏は、家族の食卓を支え、時には収入源にもなる“生きるための基盤”です。
ADRAは、ウクライナの厳しい冬を前に、家畜を飼育する農家世帯への支援を実施しました。対象となったのは、ハルキウ州バルビンコヴェ地域およびノヴォムィコライウカ地区の77世帯。高齢者、障害のある方、ひとり親家庭、多子世帯、妊娠・授乳中の女性など、特に脆弱な立場にある家畜飼育世帯です。
各家庭に14,700フリヴニャ(約53,000円)の現金支援を行い、飼料や干し草、家畜小屋の補修、獣医薬品の購入などを支えました。

「家畜を手放すしかない」――現場で見えた切実な声
ADRAウクライナ・プロジェクトマネージャーのマリナ・ポティエハ氏は、この支援は現地で繰り返し聞かれた住民の声から生まれたと話します。
「自分たちの食料を確保するだけでも精一杯なのに、飼料や干し草、薬代まで払えない」
戦争による失業や経済悪化の中、多くの家庭が家畜を売却せざるを得ない状況に追い込まれていました。しかし、家畜を失うことは、将来さらに人道支援への依存を深めることにもつながります。
だからこそADRAは、「今を支える」だけではなく、「これからも自立して暮らせる力を守る」支援を選びました。

なぜ現金支援だったのか
今回の特徴は、物資配布ではなく現金支援を採用したことです。
牛を飼う家庭、ヤギを育てる家庭、複数の家畜を抱える家庭――必要なものはそれぞれ異なります。飼料を必要とする人もいれば、家畜小屋の修繕や防寒対策、獣医薬品を優先したい人もいます。
現金支援にすることで、各家庭が自分たちに最も必要な用途に使うことができました。また、地域の商店や市場で購入が行われることで、地元経済の支援にもつながりました。

支援で取り戻した希望
マリナ氏が特に印象深かったと語るのは、バルビンコヴェ地域に住む75歳前後の女性の話です。
占領下で戦闘が村に迫ったとき、彼女は避難を余儀なくされました。最もつらかったのは、自宅を離れることではなく、長年育ててきた牛やヤギ、鶏を置いていくことだったと言います。
「せめて生き延びてほしい」と願いながら、彼女は家畜たちを放して避難しました。
その後、村が占領状態から解放され、自宅へ戻った彼女を待っていたのは、壊された暮らしでした。それでも彼女は諦めませんでした。借金をしてヤギを買い、小屋が直るまでは家の中で飼育したそうです。少しずつ鶏も増やし、今では再び牛を飼うことを夢見ています。
今回の支援によって、彼女は干し草や飼料、薬品を購入することができました。
「一番大きかったのは、“まだやり直せる”と思えたこと」
その言葉が、スタッフの心に深く残っています。
支援が生む“自立”への力
この活動によって、多くの家庭が冬の間も家畜を維持することができました。牛乳や卵、肉など、自分たちの食料を確保できただけでなく、一部の家庭では余剰品を市場で販売し始めています。
チーズ作りや牛乳販売など、小さな経済活動も再び動き始めました。
マリナ氏は、「こうした支援は単なる人道支援ではなく、地域の早期復興につながる取り組み」だと語ります。
前線地域で暮らす人々は、想像を超える困難の中でも、日々の営みを守り続けています。彼らは村の暮らしを支え、地域の生産や市場、そしてウクライナの経済を下支えしている存在です。
その力を支えるためにも、継続的な支援が必要です。
皆さまのご支援が、一人ひとりの“生活を取り戻す力”につながっています。
心より感謝申し上げます。

