
2022年2月以降、ウクライナでは長期にわたり今もなお厳しい状況が続いています。2026年も、多くの人々が避難生活を送り、住まいや仕事、大切な家族や日常を失うなど、さまざまな困難を抱えています。
ADRAはこうした状況にある人々を支えるため、これまでウクライナで継続してきた支援を現地のニーズに合わせて強化し、2026年9月より新たな支援事業を開始しました。
今回の事業では、これまでADRAが継続して取り組んできた心のケア(MHPSS)、法的支援、越冬支援を引き続き実施します。現地の状況や人々のニーズを踏まえ、それぞれの支援を組み合わせながら、必要な人に必要な支援を届けていきます。
一人ひとりが抱える「心の痛み」と「生活上の困難」の両方に寄り添いながら、厳しい冬を少しでも安心して過ごせる環境を整えることを目指します。
<今も続く、ウクライナの深刻な人道危機>
国連が発表した2026年のウクライナ人道ニーズ・対応計画(HNRP)によると、現在、ウクライナでは約1,080万人が人道支援を必要としています。国内避難民(IDP)も約370万人にのぼり、その約8割は1年以上にわたって避難生活を続けています。また、複数回の避難を経験している人も少なくありません。
特に深刻な影響を受けているのが、前線に近い地域です。
こうした地域では攻撃が繰り返され、住民の生活は大きな影響を受け続けています。住宅や病院、学校などの民間施設に加え、電力などの重要なインフラも攻撃の影響を受けています。
電力インフラへの被害は、停電を引き起こすだけではありません。電力が十分に供給されないことで、暖房や給水、医療サービスなど、日々の生活に欠かせない機能にも影響が及びます。戦争が長期化する中で、人々の生活基盤や心身への負担は積み重なっており、今なお深刻な人道支援のニーズが続いています。
<「心」と「生活」を一緒に支える>
今回の事業の一つ目の柱は、メンタルヘルス・心理社会的支援(MHPSS)と法的支援です。
特に前線に近い地域では、心理的な支援を必要としている人が多い一方で、専門的な心理支援を提供できる人材やサービスが十分ではありません。また、安全上の理由などから、支援を受けるために遠方へ移動することが難しい人もいます。
こうした状況だからこそ、私たちは電話やオンラインを活用してリモートで心の相談を提供しています。 場所や移動の制約を受けにくいオンラインで支援を行うことで、前線に近い地域を含め、対面で専門的な支援を受けることが難しい人にも、必要なときに心理的なサポートを届けることを目指します。
今回の事業では、専門家による以下の支援を行います。
- 560回のオンライン個別相談
- 28回のオンライングループ支援
- 必要に応じた精神科医療への紹介
- 140回のオンライン法的相談
- 地域のソーシャルワーカーや医療・教育関係者などを対象としたオンライン研修

法的相談では、避難生活の中で生じるさまざまな問題を扱います。
たとえば、
- 住宅や土地・財産に関する問題
- 身分証明書などの書類の再取得
- 社会保障や公的支援の利用
- 戦争で被害を受けた住宅への補償申請
- 相続や親権などの問題
などです。
こうした問題は、法律上の問題であると同時に、生活や心の安定にも大きく関わる問題です。
「住んでいた家の補償を受けられるのか分からない」「必要な書類がなく、支援を受けられない」といった具体的な問題を一つずつ解決していくことは、その人の安心を取り戻すことにもつながります。
そのため、この事業では心のケアと法的支援を別々に考えるのではなく、必要に応じて互いにつなぎながら支援していきます。
<地域で支える力を育てる>
ADRAは困難を抱える人への直接的な支援だけでなく、地域で支援を続けていく人たちの力を高めることも大切にしています。
地域のソーシャルワーカー、教育関係者、医療従事者、ボランティアなどを対象に、心のケアや心理的応急処置(PFA)、障害のある方への配慮、ジェンダーに基づく暴力(GBV)への配慮などについて研修を行います。
戦争が長期化する中、外部からの支援だけですべての人を支えることには限界があります。
地域で暮らす人々に近いところで活動する支援者が、心の不調に気づき、適切に声をかけ、必要なサービスにつなげられるようになること。
それは、今回の事業が終了した後も地域に残る大切な力となります。

<一人ひとりに寄り添いながら>
一人ひとりが抱える不安や困難に寄り添いながら、その人自身が少しずつ生活を立て直していけるように支えること。そして、地域の中で人々を支える力を育てていくこと。
それが、今回の事業に込めたADRAの思いです。
しかし、ウクライナで続く厳しい生活の中で、人々が直面している課題は心や法律の問題だけではありません。厳しい冬を前に、暖房を確保することも、避難生活を送る人々にとって大きな課題となっています。
次回は、今回の事業の二つ目の柱である「越冬支援」についてご紹介します。

