
パリッとした空気に、どこまでも広がるキャンバスに真っ青のペンキを塗りつくしたような空。さほど遠くない視線の先に、テーブルマウンテンが青空との境界線を描くように聳(そび)え立つ。
ケープタウン。私が今まで訪れた世界の国々の中で一番イケている街。アフリカ最南端南アフリカの南南西に位置する人口370万人のこの場所は、同じ州内にある大西洋とインド洋がぶつかる喜望峰で有名だ。

私がケープタウンに魅かれた一番の理由は「Vibe(ヴァイブ)」。(※雰囲気といったニュアンスをもつスラング)初めて当地を旅行した2018年2月。目に入る光景、耳に入ってくる音、肌で感じる空気、すべてにエネルギーが溢れていた。この街を訪れて以来、私はストリートアートが大好きになった。街中に突如現れるカラフルな巨大画から、狭い通りの曲がり角の壁にびっしりと描かれたグラフィティにまで、そこには眺める者に語り掛ける得体のしれない何かがある。心が躍り出すような明るいデザインもあれば、社会に向けた強いメッセージが込められている絵もある。当時ケニアの片田舎に住んでいた私にとって、旅行で訪れたケープタウンにあるすべてがキラキラして見え、美化されていた可能性はあるが、このストリートカルチャーは私の心を鷲掴みにした。



以来、イギリス留学中に訪れたロンドン、仕事の出張で訪れたハラレやダッカ、スロバキア駐在期間中に旅行で訪れたブタペストやマルセイユ。訪問した先々でストリートアートを探してきた。ちなみに、ストリートアート探しができそうな旅行の前には、私はPinterestを使ってどのエリアに行けばストリートアートが見つけられるのかチェックして、Google mapにピンをさしておく。あとは目的の地区に着いたらひたすらブラブラ街歩きをしながら、建物の壁に視線を走らせるのだ。ストリートアートはストリートカルチャーが溢れるエリアでよくみられるが、こうしたエリアは低所得層や移民が多い地域であることもままあり、治安が安定しないエリアの可能性があるので用心に越したことはない。一方、エスニックレストランやおしゃれな若者たちが集うビンテージの洋服屋が多かったり、町全体の雰囲気を味わうことこそがそこを訪れる醍醐味だったりもする。


性的搾取に対するメッセージとフリーダイヤルが描かれている。

街歩きをしながらふらりと入ったマルセイユの”Curiosity shop”と呼ばれるいわゆる骨董品店では、きれいなジュエリーから、年季の入ったインテリア家具や食器、これまた何年前の誰のもの?!というメッセージが書かれた絵ハガキに遭遇した。ハガキにはフランス語で記された誰かの恋文なのか安否連絡なのか…はたまた見てはいけない秘密のやり取りなのか…もしかすると今はもうこの世にいないかもしれない誰かから誰かにしたためられたメッセージが記されていた。これらもれっきとした売り物。これほどに使い道のない、赤の他人にとっては何の意味もないものにも美しさや面白さを見出すのだから人間とは不思議だ。


世界にはストリートアートで街づくりをするような場所もあるが、申請や認可のないストリートアートやグラフィティは基本的には「器物損壊罪」に当たる犯罪とみなされる。人に危害を加えるものではないとは思うが、建物の持ち主などは迷惑していることもあるだろう。そう考えると、ここまでストリートアート支持者として書いてきた内容を撤回するのが、一市民としての正しい行動なのかもしれない。だが、息の詰まる社会で生き抜く毎日、こうして内からあふれる想いや感情を爆発させ、通りすがりの人々に話しかけてくるようなアートを見せられると、ワクワクする心を抑えられない自分がいるのも真実だ。今のご時世、「犯罪を容認するとは何事だ!」「こんなものはアートでも何でもない!」と顔の見えない誰かに鼻息荒く怒られそうだが、時にはこんな風にThinking out loudで呟いてみたくもなるのだ。
文責:高橋睦美
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