
赤い肥料の話をしたい。
「今は赤い肥料を畑に撒いている」と教えてくれたのは、バングラデシュ北部マイメンシン県フルバリア郡の小さな村の女性たちだった。彼女たちが纏う赤・オレンジ・水色といったカラフルな服装が、村人宅の敷地空間を一気に明るくする。村の女性15名ほどに集まってもらい、私たちは農業や生活にまつわる様々な話を聞いていた。
当地の女性たちが世話をするのは、野菜や果物を育てる小さなキッチンガーデン。バングラデシュ人の胃袋を満たし、このマイメンシン県で生産が盛んなお米の栽培は専ら男性の仕事だ。女性たちは、キッチンガーデンの世話の他、収穫された米を茹でたり、乾燥させたりといった自宅の敷地内でできる作業を担う。ちなみに、2024年10~11月のバングラデシュ初訪問の折、当地にBoiled riceなるものが存在することを知った。収穫後の米を乾燥させる前に茹でることで、日持ちしやすくなり、さらには粘り気が増すそうだ。バングラデシュの米文化は、米が主食である日本人にとっても非常に興味深い。

赤い肥料を使っているという女性たちに「それは何のための肥料ですか?ご存じですか?」と聞くと、通訳をしていたスタッフと女性たちの間でベンガル語談議が始まった。この肥料談議の結果、赤い肥料が何のためのものなのか確かな答えは出てこなかった。では誰がこの赤い肥料を使うと決めたのか…?問いかけると、女性たちは自信満々で「私たちよ!」と答えた。数多ある肥料の中で、どのようにして選んだのか。聞けば、お隣さんが使っているのを見て「きっと良いのだろう!」と思い自分の所でも使い始めたのだという。果たしてこの赤い肥料がどれほど畑の土壌が必要としている栄養素を補うことができているのかは分からない。また、効果を示す具体的な数字もない。資料も見当たらない。が、この村の女性のお隣さんへの信頼度に感服した。

お隣さんパワーは他でも発揮される。この村では、近年熱波に悩まされ、昨年も集まった女性宅の多くの家庭菜園が熱波の影響を受けた。その際彼女らがとったのは、マルチングと言われる対策だった。マルチングでは、ビニールや草などで畑の土壌・畝を覆うことで、地温を調節したり、土壌の水分保持を助けたりなど様々な効果がある。女性たちは、このマルチングもお隣さんが行っているのを見て、見様見真似で実践した。結果作物を熱波から守ることができたそうだ。
この日私たちとの話を終えた女性たちが現地スタッフの元にやってきて、もっと農業の研修を受けたいと伝えた。実はこの集まりの冒頭、予定していた参加者をはるかに上回る女性たちがこの村人宅に集まっていた。元々連絡を受けていた村人が会場へ向かう道中、お隣さん達を誘い合ってやってきたのだ。なんとも長閑なバングラデシュのお隣さんエピソード。今後私たちがこの地で取り組む気候変動や農業に関する事業でも、このお隣さんパワーをいい意味で活かしていかなければいけない。
(文責:高橋睦美)











