大人になってから蝉が嫌いになった。あのゴツゴツとした不格好なフォルム、ひっくり返した時に見える足、図太い胴体。すべてのパーツが私にとっては恐怖だ。それでいて種類によっては、シースルーの羽なんかを背負ってオシャレして、これほど攻めのファッションができるのはクマゼミかデビュー当時の嵐くらいだ。そんな私も子どもの頃は、蝉を捕まえ、抜け殻もコレクションしていた。夏休みに母方の祖父母が住む静岡に遊びに行った折には、朝から祖父と散歩がてら蝉捕りに出かけ、木の上からおしっこをひっかけられたこともあった。

 長い1日が終わり、職場からの帰路に就いたこの日、いつもだったらイヤホンをして音楽かポッドキャストを聞くところを、ふと思い立って耳からイヤホンを抜き取る。寒いくらい冷房の効いたバスから降りると、湿気のせいでかけていた眼鏡のレンズが曇った。それを頭の上に載せ、生ぬるい風を頬に感じながら、自宅へと続く坂道を上っていく。左手に広がる小さな運動場を囲むようにして生い茂る木々からは、朝よりも気持ちトーンダウンした蝉の声が響いている。残業組か…。

 日本の夏は蝉の声が聞こえてこないと始まらない。少なくとも私にとってはそうだ。今私が住む横浜の住宅街でも、毎日蝉たちがけたたましい声で合唱している。これだけの大音響で鳴く蝉たちが十分に住むことができる木があるとは、まだまだ都会にも自然が残っているのかと錯覚してしまう。こう暑いと、蝉も参るのではないかと思うが、蝉と地球温暖化の関係を調べてみると、温暖化によりクマゼミが増えたという記事が散見された。どうやら気温の上昇で本来8月頃だった孵化のタイミングが雨の多い7月に早まり、湿気や柔らかい土など孵化の成功に重要な条件がそろいやすく生存率が上がっているらしい。私が歳を取っておばあちゃんになった時、そして死んでいった後の世界では、蝉が今みたいに大合唱しているだろうか。この気温では、気候変動を考える頭からも湯気が上りそうだ。

(文責:高橋睦美)

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