
パリッとした人。
守屋円花を一言で表すように言われたら、そう答えるだろう。会議での話しぶり、後輩を指導する姿はまるで糊付け後、アイロンを当てたシーツのようだ。会話をしていても、ちゃきちゃちとして、もたつくことがおおよそ無く、守屋がいると物事はテンポよく進んでいく。
ADRAには正式に「会計担当」という役職があるわけではないが、各事業には縁の下の力持ちとして、会計に強い職員が必要だ。簿記の知識があり2022年にADRAに迎えられた守屋は、その知識を活かして、エチオピア、フィリピン、アフガニスタン、ミャンマーと各地の事業担当を歴任している。現場志向の人間が多い国際協力業界において、縁の下で会計を担える人材は希少で、組織内でも引く手数多だ。計算は元々得意なのか尋ねると、背筋を伸ばしてこう言い切った。
「数字は自信をもって苦手です。」
製造業の経理の経験を持つ守屋だが、入職後は業界の独特な会計処理に苦労した。助成元からの入金を事業地に送金し、現地のルールに則って行われる支払いを日本側で記録する。レートの変動により生じる為替差益・差損も計算に入れなければならない。先輩スタッフは質問すれば丁寧に解説してくれたが、仕事を完璧に処理しなければという責任感や、プライベートの子育ても相まって、いくつものエクセルファイルと格闘する日々だった。
ようやく努力が報われて少しばかりホッとできたのは、入職から2年目、人事評価の結果、給与スケールが一段階上がった時だ。自分でも段々と業務がこなせるようになってきた実感はあったが、階級の引き上げによって実力に太鼓判を押してもらったと感じた。「ヨッシャー!と思いました」と破顔で拳をにぎって見せた。
近頃では、会計担当者としての「ニューロン」もつながってきた。
「事業の中で見通しが立てられるようになったし、色んな書類の間にある数字がピンピンピン!と響き合うんですよね。」
そんな守屋の趣味は焚き火である。それを聞いた時には、「このパリパリした人が…焚き火?」と身を乗り出してしまった。聞けば月に3回は家族とピクニックに出かけ、夫が子どもたちと遊んでいる間、一人で焚き火を楽しむのだとか。「何も考えずに、あの炭をこちらに、この炭はあちらにと、焚き火のことだけ考えて過ごすのが良いんです。」火の世話をしつつ、淹れたてのドリップコーヒーをちびちびやりながら、チョコレートをかじるのが至福のひと時だという。

「会計業務の良いところは、手元に資料が無ければ、何も考えられないところですね」と笑う。四角いセルが律儀に並ぶエクセルと、ゆったりと火が踊る自然の風景は正反対であるように見えて、対になってバランスをとっているようだ。
この業界にいると、事業地のスタッフから常に更新情報が入ってきて、心の休まる時間は少ない。自然のゆらぎの中に身を置きながら一旦仕事から離れる方法を聞いて、思わず手元のノートに「焚き火」「リラックス」と自分のためのメモを取り、力を込めて二重線を引いた。

緻密な会計作業も「答えがある分、気が楽」という守屋。現在所属するアフガニスタンチームではプロジェクトオフィサーとして主担当も務める。「コツコツ続けて、自分の中でノウハウが蓄積されていく時に達成感を覚えます」と語る凛とした表情は、有望株のそれだ。
(執筆:市川結理)