
2015年から続くイエメン内戦により、人口の3分の2が深刻な食糧危機に直面しています。2025年のOCHA報告書では、6人に1人にあたる510万人が、飢餓を危険視される状況に陥ると予測されています。
ADRAは、2015年から食糧や衛生キット配付、給水支援などを行ってきました。しかし、人道危機の長期化により、物資配付を通して一時的に命を繋ぐための緊急支援だけでは十分なサポートとは言えません。どうすれば、未来に繋げられるのか…。ADRAは、現地の方々が自分たちの力で生計を回復するためのサポートが必要だと考えました。
そこで、2022年に、日本の皆さまからのご寄付とJPFの助成を受けて、生計回復を目指した農業の灌漑復旧支援を始めました。
かつてのイエメンは、中東有数の農業大国で、人口の半数以上が農業に従事していました。しかし、10年以上続く紛争により経済が悪化し、人々の農業活動の継続が困難になりました。攻撃を受け井戸が壊れても修復できず、農業を放棄せざるを得ない農家の人々が増えていったのです。


なかなか自分たちで井戸を修復できない理由に、井戸を深く掘らないと水源に到達しないという、乾燥地特有の地形が足枷になっています。受益者の農場にスタッフが一件ずつ訪問し、カラカラからと深井戸にメジャーを下ろして測定してみると、長さは海沿いの地域で100メートルを超えました。高地ではなんと、300-500メートルの深さが一般的です。

灌漑修復には、エンジン、組み上げ用のパイプ、送水用パイプが必要です。いずれの資機材も大きく、重く、値段が高く、パイプは長いものです。トラックとトレーラーを使って運搬と設置をします。どの工程も、とても一般の人々が容易にできるものではありません。

そこで、ADRAは、脆弱な農家の方々に灌漑を修復するための資機材の配付と設置、研修の機会を提供しました。研修では、農業を離れざるを得ずブランクがある元農家の人々が再開出来るプロジェクトを組んでいます。
具体的には、自身が持つ家畜や種などの最大限の活用方法、水を節約しつつ効果的に作物を育てる手段、採れた作物の販売経路の開拓、帳簿の付け方、そしてADRAが去った後も住民たちで助け合えるよう委員会の設立など、地域に根ざした取り組みを行っています。


イエメン、2024年1月
他方、燃料価格の急激な高騰を受け、井戸から水を汲み上げるエンジンに必要な、ディーゼルオイルの価格が家計を圧迫するようになってきました。燃料の投入が滞ると、せっかく灌漑システムを修復したのに持続可能な生計回復が実現できません。そんな中、現地の人々の声に耳を傾けることで、代替手段となる、新しい希望の光が射し込みました。
2024年度から、希望する世帯に対して、ディーゼルエンジンの代わりに太陽光発電を活用した農業支援を導入することにしたのです。家計にも環境にも優しいソーラーパネル発電は、灼熱の太陽が射すイエメンの自然環境と相性が抜群です。

人々に取り巻く状況は依然として厳しいですが、自然の力を活かした技術の導入が、少しずつ希望の光を育てています。
「オクラ、トマト、とうもろこし、キビ、人参が採れたよ!」と、現地の人々から嬉しい声が寄せられています。
太陽の下で育つ作物と、イエメンの人々の未来。その芽は今、ソーラーパネルで静かに、力強く育ち始めています。

(執筆:中西)