南スーダン便りvol.90 難民が難民でなくなる日は来るのか

衛生啓発活動に協力してくれている難民

皆さん、こんにちは。
現在エチオピア事業で現地担当をしています辻本です。

一昨日の6月20日は世界難民の日でした。

今回は、難民について少々文章をつづることができればと思います。

世界難民の日は、難民支援や保護について世界的な関心を高め、国連機関やNGOの活動への理解を深めてもらえる日にするために、2000年12月4日に国連総会で決議されました。

エチオピアのクレ難民キャンプで南スーダン難民支援事業を続けているADRA Japanとしても是非この機会を活用し、情報発信したく思います。

本稿では難民の人が難民でなくなる日は来るのかについて考えられればと思います。

難民の解決策は大きく分けて3つあります。
これを難民支援の業界用語で”Durable Solutions”(デュラブル・ソリューション; 恒久的な解決)と言われます。

1つ目は自分の国に帰還することです。

2つ目は難民として避難している国の国民として定住することです。

3つ目は別の国に移住すること、つまり第三国定住です。

第三国定住は大抵欧米圏を指し、難民の経済力や文化が大きく違う国で暮らすことなどハードルが高いので、3番の難民は少ないのが現状と思います。

それでは、1はどうでしょうか。
自分の国に帰るということは、大前提として、難民となった原因が解消されている必要があります。

例えば、クレ難民キャンプの難民であれば、南スーダンの紛争が終わっていることが前提となります。

しかし、紛争は武装勢力が平和条約にサインをして終わるほど簡単なものではありません。

紛争の根本原因が解決されている必要があります。

南スーダンを例にとれば、部族対立の構造が色濃く、まだお互いが平和的に共存できているとは決して言えません。

また紛争から逃げてきた難民のいた土地や住んでいた家が、そのまま残っているとも限りません。

敵対関係にあった人々が住み着き、さらに問題は深まってしまうケースもあります。

そんな中、平和条約が結ばれたから、南スーダンに安心して帰還するという人はほとんどいないと思われます。

衛生啓発活動に協力してくれている難民

1つ目の自国への帰還が難しいのであれば、他のDurable Solutionは2の避難国で定住ということになります。

まず、第一にこれが現実的かどうかは受入先国の政府の政策によります。

ちなみにエチオピア政府は、現在、難民に対して統合政策の方針をとっています。

しかし、いくら隣国といえども、社会のルール、言語、経済力、民族の違いなど課題は沢山あります。

こうした点を考慮せずに、難民を市民として受け入れた場合、地元コミュニティとの軋轢(あつれき)、治安悪化、経済格差、差別の問題などが発生するリスクがあります。

現在、クレ難民キャンプ内ではエチオピア政府の難民担当機関(Agency for Refugee & Returnee Affairs:ARRA)が5つの学校を管理しています。

教育を通じ、徐々に受入国に慣れていくという方法はあります。

しかし、教育は長期的な効果を期待する分野であり、数値化も難しいため、短期的なロードマップとしては明示しにくい難しさがあります。

また、難民キャンプは市街地から離れた国境近くにあることが多く、教員不足も課題の一つです。

難民の言語が使える先生となればなおさらのことです。

これはクレ難民キャンプも例外ではありません。

ここまで3つの解決策を大きな枠組みとして記してみましたが、どれも課題があることがご理解いただけたかと思います。

では、難民が難民でなくなる日はいつ来るのでしょうか。

残念ながら、先行きは不透明です。

現在、ほとんどの難民はシリア、ベネズエラ、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマー、パレスチナなどの出身で、ざっくりとではありますが、上記のような理由から、難民キャンプが長期化しているといっていいと思います。

クレ難民キャンプ内の食料配給所

難民キャンプとはそもそも緊急対応のために設置されるものですが、もはや「キャンプ」は学校、水場、床屋、トイレ、
電気製品店(もちろんとても小さいですが)や教会があり、「町」のようになっています。

しかし、同時に難民キャンプを運営しているのが難民自身ではなく、受け入れ国政府、国連機関やNGOであることも事実です。

こうした外部の支援組織によって、難民キャンプの全体的な管理、食糧配給や診療所などが運営されています。

そうした中、ADRAはクレ難民キャンプで水衛生分野を担っています。

避難生活の長期化に伴い、国連やNGOは難民の自立支援に向け試行錯誤しますが、支援されることが常態化している難民との関係から、自立を促すことは一筋縄ではいきません。

例えばADRAの事業では、難民のトイレ建設への参加を促進していますが、支援される側という意識が定着し、あまり参加したくないという難民も中にはいます。

難民キャンプでの生活が長期化する一方、新しくやってくる難民もいます。

難民支援は新規難民への緊急支援と既存難民の自立支援の2つの側面があります。

その中で、我々NGOや国連機関は、難民の生活レベルの維持と将来の難民の自立、この両面を考えていく必要があります。

新規難民用のUNHCR仮設テント

長文になりましたが、ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。

上記に記した難民問題はアカデミックな議論でもよく取り扱われています。

Durable Solutionの専門家ではない私が、限られた知識から記したものなので、正確ではない部分もあるかと思いますが、
難民問題の複雑さと、適切な支援を考えていくことの大切さを伝えたく、記事を書かせていただきました。

世界難民の日という節目に、このブログを通して、読者の皆さまが難民について考えるきっかけになっていただければ幸いです。

これからもADRAは難民問題の複雑さを考慮しながら適切な支援を考え、クレ難キャンプでの南スーダン難民支援活動を継続していきます。

今後とも皆さまからの温かいご支援をよろしくお願いします。

*本事業は皆さまからのご支援とジャパン・プラットフォームの助成を受けて実施しています。

(エチオピア事業 駐在員 辻本峻平)

衛生啓発活動に協力してくれている難民

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